2014年 04月 03日
2ちゃんねるからアラブの春へ(1)- 4chan式アキバカルチャー拡散装置 |
海外でのアキバカルチャーを語るなら避けては通れない、あの巨大な画像掲示板サイトについても書きます。
4chanはピークを過ぎたとは言え、2ちゃんねると同じようにネットの最深部で影響力を保ち続けるんだろうな・・・「Lurk Moar」(半年ROMってろ)の概念は未だ健在なり。
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■4chan式アキバカルチャー拡散装置
4chanとは、2003年に当時15歳で米国ニューヨーク州に在住だったmoot (本名 Poole) が、アニメについて語り合うのを目的に、「ふたばちゃんねる」のソースコードを利用して作られた掲示板サイトである。私がカレッジのJCRの掲示板を「2ちゃんねる」にしようとしていたのと同時期である。ふたばちゃんねるは、2001年に2ちゃんねるが閉鎖の危機に瀕したときに避難所として作られた画像掲示板である。ふたばちゃんねるも4chanも、Imageboard(画像掲示板)と呼ばれる形式を採用しており、この形式の掲示板は”chan board”の名で知られている。4chanは2ちゃんねると同じくログインもパスワードも無い匿名掲示板である。設立後すぐに猛烈な数のアクセスを集め、以来何度も閉鎖の危機に瀕したり、メディアで報道される様な騒動を起こしながら拡大し、今に至っている。
英語圏ではディスカッションフォーラム型掲示板が主流であり、匿名掲示板は主流ではない。そんな中で、4chanは異色の存在である。通常はネット掲示板と言えば、夜に書き込んだら次の朝にレスが付いてないか見たりするものだが、4chanの一部の板ではスレッドの平均寿命が3分54秒しかない上に、ログすら残らない仕様になっている。このような板では、掲示板サイトというよりも不特定多数とのリアルタイム雑談をするチャットルームと呼んだほうが適切かもしれない。ユーザーは圧倒的に北米に偏っており、ヨーロッパ人やイギリス人はeurofagやbritfagと呼ばれ、蔑まれているほどである。
4chanの雰囲気は「2ちゃんねる」の「ニュー速VIP」や「モ娘(狼)」のような雑談系の板に近く、様々なネットミームが生まれる場所としても知られている。その中でも、交通量の30%を占める/b/板だけは特別で、2ちゃんねるを上回るレベルでの「何でもあり」の無法地帯として知られている(恐れられている)。書き込みは罵倒語や卑語だらけであり、投稿される画像もエロ、グロはともかく、ぱっと見では理解できない画像が非常に多い。時折児童ポルノや猟奇画像も紛れ込んでいるため、見る人にも相当の覚悟が要求される。また、/b/板は「勝手に心象を悪くする方が悪い」、「釣られた方が悪い」という、初期の2ちゃんねるさながらの究極の自己責任の価値観で動いているため、何をやっても”just for da lulz”(面白そうだったからwww)で片付けられる風潮がある。いかなる知識人や権威が批判しようとも、まるっきり「のれんに腕押し」となる世界である。この滅茶苦茶でアナーキーな無法地帯について、英国の左派の有名誌であるThe Guardianは、「狂っていて、幼稚じみていて.....面白おかしく、そして何か、これでいいのかと思わせる」と評している。1 アメリカの右翼メディアであるFOX NEWSは、4chanをアナーキストが跋扈する極左サイトであるとした。
4chan.orgのトップ画面。左の方にアニメ・マンガ系が集中している。NSFWとは、Not Safe For Workの略で、「職場で見るな!」と言っている。つまり、猟奇・エロ・グロ画像がありそうだから注意しろという意味である。
4chanが無法地帯であることは、ユーザーも運営側も認識している。2ちゃんねるが自虐的に「便所の落書き」と自己を形容することがあるが、4chanも同じぐらい自虐的に”Complete shit hole of the internet”(インターネットのケツの穴)と形容している。しかしユーザーは、むしろ「ケツの穴」であることをアイデンティティーとして認め、同じ4chan住人という仲間意識を育んだり、創立者のmootを含む運営側も、“No rule rule”(なんでもあり)を運営方針の中核として貫いていたり、4chanの思想や文化のベースは、インターネット以前から脈々と続く「カウンターカルチャーとしてのサイバーカルチャー」に近い。つまり、サイバーカルチャーという立場から見れば、4chanは非常に伝統的で保守的なのである。
4chanは中がごちゃごちゃ過ぎるため、その存在が社会にとってプラスなのかマイナスなのかという二元論で問われると、とても弱い。そのような二元論では、4chanは少なくとも胸を張って「プラスだ」と言えない以上、ならばマイナスだと考える人がたくさん出てくるからである。こんな賛否両論ありすぎの無法地帯ではあるが、4chanはアキバカルチャーにとってはどうなのかという問いに限定すると、プラスの方が多かったといえる。
4chanはそもそもmootがアニメについて語り合うために作った掲示板である。そして今でも、4chanの4分の1は、アニメ・マンガ・ゲーム・二次創作など、日本、しかもアキバカルチャー関連である。残りの4分の3は「スポーツ」、「科学と数学」、「音楽」や「車」といった板で、特にオタクが集まっているわけでもないのだが、そこにも恒常的にアキバカルチャーを題材としたネタが流れ込んでいる。新たな外国人がアキバカルチャーの世界に入る時に障壁になるのが、それを楽しむためにはある程度の慣れや予備知識が必要なことである。いくらアキバカルチャーが言語を超えているとは言え、一つのハイコンテキスト文化な以上、避けられないことである。しかしその点でも4chanは便利である。例えば普段/sp/(スポーツ)板に出入りしている人がアニメに興味を持ったとしたら、すぐ近くのリンクをクリックすればいいのである。すると、いつも使っている掲示板と同じ要領でアニメ最新情報へアクセスでき、すぐにでも「アニメオタク」になれるのである。
また、ただでさえ4chanはネットミームの発生源である。従って、4chanの中で渦巻いているアキバカルチャーも、4chanが発するネットミームに乗って次々と外へと飛び出していく。その実例は、翠星石のDESUDESUDESUのミーム、caramelldansen、Nice boat.、ロイツマガールと、枚挙に暇が無い。また、My Little Pony2やDemotivational Poster3のように、アキバカルチャーに属さないミームであっても、その派生ミームにアキバカルチャーが混ぜ込まれることも多い。作る方も理解できる人が一定数以上いると踏んでいるのであろう。
4chanは英語サイトだが、それ以外の言語圏にも「輸出」されている。4chanの類似サイトは、一まとめに”chan-board”と呼ばれており、ドイツ語圏にはkrautchan、ロシア語圏にはdvach (2ch.hk)、スペイン語圏にはNido (nido.org)がある。各国のchan-boardは4chanと酷似しており、常に立ち上がったり閉鎖されたりしているため、殆どが個人サイトであると考えられる。この類の掲示板サイトは4chanほぼ同じ雰囲気であり、4chanで何かが流行すると、ほぼ確実に各国のchan-boardへと拡散していく。そしてどのchan boardでも、アニメ板や日本関連の板があるため、4chanを頂点とする各国語版chan-boardのネットワークは、それ自体が巨大なアキバカルチャー拡散装置となっているのである。
これまで、海外でのアキバカルチャーはサイバーカルチャーと一体であるとしてきたが、4chanとchan-boardのネットワークは、まさにその最たるものである。
by yukihanyu
| 2014-04-03 00:10
| サイバーカルチャー